天魔降伏?
明るい晩だった。
草木は眠り、穏やな暖かい朝を待つ。
恐らくは人も。
人は夜に一旦死に、朝に再び蘇ると言う。
ならば『死』とは、『朝』に目を覚まさずに蘇えらないことなのかも知れない。
今全ての生命はその活動を停止させ、『朝』と云う名の『新生』に備えている。
ここは日光東照宮
かつて日本を平定しこの国を支配した男が眠っている聖地。
そこに黒装束の男が舞い降りた。
可王京介
彼は小鉄を引き抜くとその男が眠っている場所へと刃を突いた。
「日光東照宮…ここは帝都から見れば『江戸』と云うかつての帝都を護るいわば『鬼門』。奴が…徳川家康が、神を封じた可能性は極めて高い…」
可王は刃を更に深く突き入れる。その時、背後で鈴の音色が耳の奥へ響いた。
「ようやくお主の企みが解ったわい…全く長生きはするもんじゃな」
「大光明…」
大光明は編笠を剥ぎ取ると可王へ鋭い視線を注いだ。
「お主が死人になってまでも執念を燃やし成就せんと企むモノ…それは文字通り…神の『心』じゃな」
「気づいていたか…しかし一つ間違っている…俺はこの世に生を受けたことがない。いわば…生まれついての死人と云うわけだ」
「それも…神か」
辺りを静寂が支配する。
「面白いことよ…儂がこんな姿で生きさばらえて来た意味もあると云うものじゃ」
「最初はわからなかった。まさか貴様が俺の知っている大光明だったとは…」
「女じゃったからな」
「薬師院大光明…妖庁の創設メンバーの一人にして最強の呪術者…お前はその子孫でも伝承者でもない。お前と云う存在は全て同一のモノだ!」
大光明は答えない。
「お前が女に為ったのは全ての力を使いあるモノを自身の体に封印するため…そしてそれはお前の体内にある」
「其処まで分かっているなら…言葉は要らん筈じゃな」
「東照宮まで来たが…無駄足と云うワケではなかったか…貰うぞ神の『心』を!」
辺りに鬼気とした殺気が広がった。