この気持ちはなんだ‥。女の子と話してこんなにドキドキしたのは、もういつの事だか、俺の中の記憶から抹消されたかの様に忘れかけていたのにーー。
『今、仕事中でしょ?ずっとこの場所にいたら店長に怒られるよ。』
気持ちとは裏腹に、俺は一応格好付けてみた。
ああ…。こんな汚い格好で、こんなシチュエーションを迎えるとは思ってもみなかったーー。
なんとも言えない複雑な心境の中、俺は女店員の返事を待っていた。
『そうだよね。明日は月に一度の激熱イベントなので、良かったらいらしてください。』
女店員は飛びっきりの笑顔で答えた。
『ありがとう。行けたら行くよ。』
行く金もないのに、俺はその場凌ぎの言葉を返した。女店員は、俺にペコリと頭を下げると、足早にその場を去って行った。
そうだよな‥。この女店員は俺を1人の客としか思っていないし、激熱イベントの宣伝をしても何の不思議もないと言う訳だーー。
そんな事を考えていたら、あの女店員と話している間、ずっとドキドキしていた自分が格好悪く思えて来て、なんだか複雑な気持ちだけが残った。ふっと時計に目をやると、まだ3時。ネットカフェのナイトパックは10時から。はぁ‥。10時までは時間を潰さなくてはならない。取り敢えずパチンコ屋を出て、その後どうしようかーー。
その時だった。
店を出ようと出口に向かって歩いていると、突然後ろから声がした。
『こら兄ちゃん!飯奢ってやるって言っただろうが!!』
さっきの男だった。俺は面食らった。
その顔は、さっき女店員に絡んでいる時以上に凄い形相に変化していたからだ。
『女の前だからと何格好付けてるんだ?小僧。表へ出ろや。』
そう言うと同時に、男の拳は俺の右頬にヒットしていた。
その一発で足がぐらついた。
く‥そ‥。一発位は殴り返してやろうと凄んで見せたが、拳に力が入らなかった。俺の拳は空を切った。飯もろくに食わずのカップ麺生活の成果を、こんな場面で披露する事になろうとはーー。
俺はこんなジジィにまで負ける程、喧嘩が弱かったのか‥。チキショー!!情けねぇー!!
男の拳は容赦無く、俺の顔面にヒットした。
朦朧とする意識の中で、野次馬達の中にさっきの女店員の姿を見たーー。
もう駄目だ…。
いっそこのまま死んでしまえたら…。
次の瞬間、俺は意識を失ったーー。