目を覚ますと、そこは見知らぬ場所だった。
俺はベッドの上に寝ていた。
辺りを見回すと、ベッドの周りは白いカーテン、白い壁。
どうやら此処は病院のようだ。
腕には点滴のチューブが付けられていた。
『気が付いた?』
振り向くと、そこに居たのは女店員だった。
『あたしの為に、あなたを巻き込んでしまって本当にごめんなさい。』
『そんな事ないよ。俺が勝手に余計な事をしたんだから。君は関係ないよ。』
そう言った瞬間、俺は全てを思い出した。思い出したと同時に、終始やられっぱなしで、一発も殴り返す事も出来ずに意識を失った自分が情けなく、格好悪くて、彼女の顔をまともに見れなかった。
う゛〜‥。穴があったら入りたい‥。
『先生言ってたよ。栄養失調だって。』
彼女のその一言で、俺の腕の点滴のチューブの中の黄色い液体が何なのか、ようやく察知した。
『あれ?君、仕事は?』
話そうとすると、殴られた顔面の傷が痛む。
『あは‥。仮病使って早退しちゃった。』
そう言って彼女は、はにかんで笑った。
『大丈夫なの?まさか俺の為に早退してくれた訳?』
『うん。』
彼女はニコリと俺に笑いかけ、その後に続けてこう言った。
『マネージャーが、あと1時間もしないうちに遅番の人が来るから大丈夫だよって言ってくれたの。』
『俺が店の前であの男に殴られてたから、騒ぎになってない?』
『ううん、大丈夫。あの男性は、うちの店ではブラックリストに載ってる人だから。みんな分かってる。だから心配しないで。』
彼女と話していて分かった事だが、俺が意識を失った後、彼女はタクシーで俺を病院まで運んで来てくれたのだと言う。
『そうだ、病院代。』
俺は今まで、こんなちゃらんぽらんな生活をして来たから、勿論、保険証など持っていなかった。
『あの‥。あたし立て替えておきますから。だからお名前と御住所と電話番号教えてもらっていいですか?』
『えっ?!マジで?!』
あまりにも唐突な質問に俺は当惑した。
今時、こんなに素直に人を信じられるコがいるなんて、正直驚き、逆にこう聞き返した。
『君、いつもそんな簡単に人を信用するの?』