オーナーも寒そうに来て、僕等は席に通された。僕は彼女がなんとなく気になり、いつもの自分が自分らしくないのも分かっていた。男だったらこんな時カッコつけようか素の自分を出してオールスターとわいわいやろうか、気持ちは葛藤していた。
白い肌と、どことなく加藤あい似の彼女の肩に中年男の手が乗っていて、彼女を落とそう、として歌っているバラードがやけに僕をムカつかせた。
僕は仕事上、人の髪型も見るが一番よく見るのは手や指だ。手や指でその人の生活環境がわかると思う。
家事をしてそうな手、してなさそうな手、マニキュアまでしてある指、爪も切ってなさそうな指、指輪の場所によっても大切な指輪か、貰った物自分で買った物か結婚してる、してない。いろんな事が想像できる。手や指には不思議な位、その人の答えがあると思う。
一瞬だが彼女の手を見た時右手の薬指に指輪が光っていた。結婚はしてなさそうだが、彼氏がくれた物の感じがした。僕に近づくなと言っている様な輝きが少し暗い部屋の中でひときわ輝いていた。
うちらの席には太めのママの娘と日本語があまり話せない中国人の二人、訳がわからない会話と顔を直視できない僕の目。早く帰りたいと思う心。
そんな中で飲んでいると酔っているオーナーの口から「あの娘は、新しい娘?いくつ?なんて名前?この店に合わないけど引っ張ってきたの?」僕が一番気にしてて聞いてみたい彼女の事が、ポンポンポンポンと僕に代わって聞いてくれる。
彼女の名前は「さっちゃん」。今でも、この名前を聞くと胸が痛く鼓動が高鳴る。そして泣きそうにもなる。彼女によって今の自分が生かされている。その後、僕が彼女に男と女性を学んび、まさか夢に手が届いた彼女との最高のヘアーショーになるなんて予想もしていなかった。