「おい、起きろ」
光が目を醒ますと既に夜があけ、うっすらと遠くが紅くなっているのが見えた。
一体どこにいるのか、最初は分からなかったが耳をつんざくような機械音で大体の推測が出来る。
聞こえてきたのはジャンボジェット機のエンジン音である。
太陽に向かって翼を広げて飛ぶその姿は寝ぼけ気味の光には鳥にさえ見えた。
時計を見てみると時刻は6:30をまわっている。
全くといっていいほど眠気が取れていない。しかも狭い車内での悪い体勢のおかげで右肩から首にかけてジンジンと痛みがはしる。
「大丈夫か?」
優しい声に反応して辛い首の痛みに対抗して頭を上げてみると、そこにはじっとこっちを見つめているJの姿があった。
「……何が? 何の問題もないわ」
「ならいい」
すぐにJは離れてしまった。
Jがあそこまで口数が多かっただろうかと光が過去を振り返ろうとしたとき、平手で頭を打たれた。
「……っ〜〜!」
頭を打たれた痛みよりも寝違えた首の右側が死にそうな位痛かった。
「早く起きな」
半笑いの望の声が後ろから聞こえて来る。
「……ちょっとあんた!」
「おら、朝飯」
頭の上に紙袋を置かれる。
無論今回も首に激痛が走らない訳がない。
怒るのにも疲れた光は自分の首を摩ることに集中することにした。
「さっさと食ったらアメリカに飛ぶぞ」
「予定通りなのね」
「当然。 今の所何も問題はない。」
「今私がこの場にいて、あんたに打たれて紙袋を乗っけられる事自体がもう既に”問題”なんじゃないのかしら?」
「文句があんなら食うなよ。せっかくのサンドイッチが台なしだぜ」
望が紙袋に手を伸ばそうとしたが、直ぐに光は頭の上から手元に落とす。
「これはこれで美味しくいただきますから」
「どうぞ、ごゆっくり」
皮肉がこもったその言葉を遮るように、光は車のドアを閉めた。
紙袋の中には美味しそうなハムと卵、それに野菜の沢山入ったサンドイッチが入っている。
それを見た瞬間に急激にお腹が空いてくるのを感じた。
窓を叩く音が聞こえてきたのは手を伸ばそうとした直後のこと。