「でも………。」
私がどうしたら良いのだろうと戸惑っていると、彼が何かを差し出してきた。
「これ、今朝拾ったんですよ。失礼だとは思ったんですが、中を見させていただきました。」
彼が差し出した物は、財布だった。
…そう言えば、佐々木課長、財布を落としたって今朝騒いでいた…。
私は心の中で軽く佐々木課長に舌打ちしたい気分だった。
「本当にわざわざどうもありがとうございます。」
私がお礼を伝えると、彼は「いえ。」と小さく笑って出口へ向かった。
しばらく私はそのまま立っていた。
この後は、きっといつも通りに仕事をこなして、いつも通りに帰宅して、いつも通りの生活に戻る。
少し、名残惜しく感じていた。
さっきまで降っていた窓の外の雪はやんでいた。