家に着く頃になると、もう日付がかわっていた。
目の前のマンションの2階に目線をあげると、まだ明かりがついていた。
こんな残業後の部屋へ向かう為に通る階段は、いつも疲れた顔を隠す自信をなくしていく。
「ただいまぁ。」
当たり前のように鍵を開けて中に入る。
この部屋の同じ鍵を持つ事でさえも、昔は愛情のひとつだって感じていたのに。
「おかえり。今月も残業お疲れ様だね。」
夫――――。亮ちゃんが顔だけのぞかせていた。
私が目線だけで返事をする。
「唯ちゃん、ご飯あるから食べなね。俺、明日早いから先に寝るよ。」
私の頭を軽くポンポンと撫でてから、亮ちゃんは寝室に行ってしまった。
明日もきっと早いのに、必ず私を待っていてくれている。
大事にされている。わかっている。
平凡で当たり前に見えるだろう。
その平凡さや当たり前の事が実は物凄く幸せな事なんだっていう事も知っている。
ただ、当たり前になっていく事が、時々私の中では『虚しい』と感じる日もあったりする。