「で、ナニユエこのしがない一人暮らしの男の家なんかにいらっしゃったのですか?」
食後の日本茶を注ぎながら俺はダイニングテーブルに腰掛けている少女に聞いた。
「お聞きでいらっしゃいませんか?」
「ええ……存じ上げませんが。」
これは本当である。なにかしらの情報があるにしても電話なりFAXなりで送られて来るはずだ。
仮にそれが特別な連絡であったとしても文書で詳細が郵送られる筈なのだ。
「では、私の方に来た要請文書を読み上げます……。」
と、彼女…ええい、面倒くさい…シェリーはポケットから封筒を取り出した。
と、厳重な封が施されたそれを数回指で叩き、封を外して中身の冊子を取り出した。
「拝啓、シェリー・ヴェルザンティ殿 貴女にはこの度文部科学教育省より第63番教育プログラムにあたれとの指令が下りました。
つきましては、ネリマ特別区在住の高等学校生、九条司と行動を共になされたし。なおこの指令を請けるか否かは任意であり、希望しない場合は速やかにこの文書を返送されたし。以上です……。」
「と、言われましても僕の方には何も来ていませんから……。」
と、玄関の呼び鈴が鳴った。
全く、何なんだこのマンガ的な展開は…………。
インターフォンに据え付けられたカメラの画像を見ると、そこには大手宅配便会社の制服に身を包んだ男が居た。
お届け物です。と言われると俺はシェリーに一言告げて玄関へ向かった。
郵便物の封筒の表面を見るとそこには機密文書と赤文字で書かれている。
ヤレヤレ………。
「どうやら僕にも同じ物が来たようです。」
封筒の中身についてはまあ想像がつくが、一応目を通す。
内容は言うまでもなくシェリーと同じ物だった。
「では、これからよろしくお願いいたします。」
「……こちらこそよろしくお願いいたします。」
俺は湯呑みに残った日本茶を飲み干した。
さて、この日までで俺こと九条司の平凡な生活が終わってしまうとは俺自身は全く思いもしなかったし、俺のあんな特技が発現するとは正直、予想だにしなかった。
ただ一つ俺が言えることはこれから起こることは本当のことであり、決して嘘ではないということだけだ。