【弟と祖父】
ボクは小さい頃からおじいちゃんっ子だった。父親がいないボクら家族のために必死に働く祖父はボクのヒーローだった。祖父の悪口を言う人は許せなかった。時には暴力的で理不尽にボクだけを痛め付ける祖母にまで怒り、ボコボコにされた事もあった。
しかし、弟は違った。本人いわく、
「じぃちゃんは兄ちゃんしか可愛がらない」
からだそうだ。
実際はそんな事はなかった。
不良で、たびたび夜遅くに帰ってくる弟を心の底から心配していた。
その度にボクは弟が許せなかった。
そんなある日、祖父が体調を崩し、検査入院することになった。
入院前最後の日も、弟は友達と遊ぶと言って、祖父と顔を合わさなかった。
入院から一ヵ月、祖父は持病が悪化し、白血病を患っていた。
レベルは最悪の5、無菌室に移る、あと一週間で面会謝絶になる…
そんな状態になっても弟は
「遊びに行くから見舞いに行けない」
と言った。信じられなかった。
治療も順調にいっていた矢先、血管さえもボロボロになっていたため、祖父は脳出血を起こした。
過剰な白血球を一時取り除いたため、新たな病気の感染の恐れがあるため、無菌室から集中治療室に移動させる事すら出来ない状況、ボクは弟の事なんて気にしていられなかった。ただただ祖父を失うのが怖かった。
医師に後数時間かもしれないと言われたが、祖父は奇跡的に一週間耐えた。
無菌室でボクは号泣した、小さな従姉妹たちも。母親も涙を流していた。
葬式の手続きをする母親をボクらは呆然と待合室で待っていた。
涙は止まっていた、いや、止めた。ボクは長男坊、いつまでも泣いていられない―\r
そう思っていた時、弟が呟いた。
「俺、じぃちゃんの事嫌いだった」
彼はボクの見間違いでなければ涙ぐみながら言った。その言葉がまるまる本気ではない事が伝わってきた。そして、続けた、「もっと話をしたかった、いつから嫌いになったんだっけ」
その言葉にボクは再び号泣した。