彼は既に私の目の前の席に座っていた。
昨日の事は気にしてはいないのだろうか。
「他の席もたくさん空いてるじゃないですか。」
どうしようもなく、私は冷たく言葉で彼をつきはなしてみようとする。
「偶然仕事があって、偶然食堂へ来てみたら、偶然あなたに会えた。」
気にしていないような彼の言葉で、私は席を移動しようと立ち上がる。
「ちょっと待ってください。」
私の腕を彼が掴む。
「あなたと話がしたい。」
私を見上げた彼の真剣な目に、私が敵うはずがなかった。
「話しって何ですか?」
ため息混じりに感情を落ちつかせながら私は聞いた。
「昨日は突然すいませんでした。」
彼が1度頭を下げる。
顔を上げる瞬間に目が合ってしまう。
「どうして僕があなたを知っているのか聞いて欲しい。忘れてくれてかまわない。ただ聞いて欲しい。」
そして彼はこうも言った。
「あなたと僕は昔会っている。
あなたは覚えているかもしれないし、覚えていないかもしれない。」