ティシュの体は震えていた。不安からじゃない。手に汗が湧き出るような興奮。目の前にあるのはずっと憧れ追い続けた街がある。
「おっちゃん……スピード上げてくれ」
「……無理だ」
「は、早く!早くしてくれよ!すげー!あれがラバンティアかぁ……」
嬉しさのあまり立ち上がり暴れるティシュのせいで、老人の服は既に海水が浸透してしまっていた。
「止めろっていうのがわかんねーのか。ここで降ろすぞ!」
「はい……ごめんなさい」
大人しく座っても視線はずっと街を、足は早くあそこに行きたいと上下に動いていた。
着いたらまず何をしよう。見学?食事?それよりも最初は市役所に行って店を出す準備をしなければ。
ティシュの中でずっと予定していたのは、街全体が見下ろせる丘に場所を借り店を開く事だった。その為には少しでも早く契約をしなければいけない。
「もう少しだ」
遠くに見えていた街は次第にはっきり形を成し、正面ゲートには沢山の人が入島する為長い列を作っているのが判った。
小舟は浅瀬まで来るとスピードを更に緩め、土に乗り上げ動きを止めた。
その瞬間にティシュはリュックを背負い直し、飛び跳ね小舟から降り立った。
数日ぶりの土の感触。食料の買い出しの為何度か違う島の土を踏んだが、それとは全く違う感触にティシュは飛び上がった。
「やりー!これで俺も街の一員だぁ!」
人目も気にせずはしゃぐティシュに老人は言った。
「おい坊主。お前のうんちくはよく解らんが、お前がくれたコレで体が楽になった気がするよ。頑張りな」
方向を変え動き出す小舟にティシュは大きく手を振り見送った。