家に帰って携帯のメモリーからアキヒロの名前を探し、電話の画面にしてはみたものの、怖くて通話ボタンが押せない。
何回か繰り返していたら、携帯が鳴った。
着信。
相手はアキヒロ。
携帯をもった手が震えた。
ずっとメロディーが鳴り続いている。
「もしもし。」
声が震えている。
「俺。エリもう家にいるんだろ?駅まですぐ来いよ!待ってるから。」
「えっ…」
実際迷った。このまま会うべきか、会わないべきか。
会うのが怖い。
あの日以来アキヒロは会うたびにいつも無理矢理だった。
今では最初の頃の優しかったのが夢みたいだった。
これが彼の本当の素なの?
怖い。
でも、逃げるのはダメだ。
カナコ先輩の顔が思い浮かんだ。
「わかった。すぐ行く。」
「早く来いよ!じゃあな。」
急いで駅に向かう。
呼吸がしにくい。
駅に着くとすぐに座り込んでいるアキヒロを見つけた。
「あ…アキ…?」
声をかけるとアキはすぐに立ち上がった。
「ちょっと来い。」
強引に腕をひっぱられて小さな公園につれていかれた。
「お前さぁ、俺を怒らせたいの?」
そんなはずない。
「最近お前、態度がかわったよな?好きな奴できた?」
ちがう。変わったのはアキだよ。
「マイたちから聞いてるけど。」
なんでマイが?
「同じクラスの渡辺だっけ?仲いいらしいじゃん!」
渡辺は友達だよ?
「何黙ってんだよ!」
言葉が出ない。
マイたちがアキに渡辺のことを話していた?
だからアキの態度が変わったんだ?
「もう、無理だよ。別れよ。」
やっと出た言葉だった。
「はっ?何言ってんの?マジで?ユーキの言ってた通りか。渡辺だろ?」
「違う!渡辺くんは関係ない。本当だよ!」
「なら何で?俺がいるのに他の男と仲良くしてんだよっ!マジふざけんなっ!」
アキヒロが嫉妬深いのを思い出した。
「なぁ、エリ。お前俺のこと本当に好きだったんか?」
一気に血の気が引いた気がした。
嫌いじゃないし。
そんな曖昧な理由で付き合い始めた。
アキヒロの素を見て怖くなった。
そして、私は最初で最後の嘘をついた。
「好きだったよ。」
アキヒロはきっと気付いていたと思う。
でも、もうそれ以上の言葉はなかった。
そして、私とアキヒロは別れた。