巳之吉(みのきち)とお桔(おきち)の間に何故か見つめあったままの沈黙が続いた。
「しかしどういう訳だか年頃の娘があんな派手な桔梗の模様なんか着て一人旅なんかするか…」
「えっ、桔梗…」
「あぁ、そうだったな、タメ」
沈黙に耐えられず巳之吉が話しはじめたことを聞いてお桔はたまらず養生所の奥へ駆け込んだ。巳之吉と為吉(ためきち)もそれに続いて奥へ向かった。
「お梗(おきょう)、あなたお梗でしょう」
「もしかして、この方はあなたの妹さんですか?」 「はい、そうです」
医者の問いにお桔が答えると巳之吉は為吉と顔を見合わせて驚いた。そして為吉はお梗の顔を覗き込んでこう言った。
「やぁ〜こりゃあ驚いた兄貴、この娘(こ)お嬢様と瓜二つでっせ」
「何、いってぇ何がどうなってんだい」
そんなやりとりに医者が入ってこう言った。
「まぁお三方、どうやら倒れてたのは二、三日何も食べてなかったようだし、ここで粥でも食って一晩泊まれば、大丈夫だ」
そう言われて巳之吉ら三人は養生所を後にした。
(続)