「私を殺しなさい」
母はもう一度言った。
「……」
麻里はまだ喋れない。
「私が死ねばあなたを止める人はいなくなるのよ」
「冗談言わないで!お母さんを殺す?そんな事出来る筈な」
「私は本気よ」
母は麻里の言葉を遮ると諭すような眼差しで言った。
「なっ…」
「麻里、掟を破ったら家族全員処刑されるって話したでしょ」
「うん」
「あれは処刑じゃない、ただの殺人だわ」
「殺人…」
「そうよ。30年前。まだ私が14の時、ある男が兵士の隙を狙って門の外へ出た。たった一歩だけ…なのに兵士達はその男を捕まえ、逆さ吊りにし、太い鞭で血が流れるまで叩き続け、そして…」