あの日から、何度彼に会っただろう。
仕事をこなし、優しい夫の待っている家へ帰り、一週間に1度彼と会う。
繰り返し、繰り返し、季節は移りかわって行く。
今は、彼と出逢ったあの日の季節とは正反対の季節になっていた。
彼の好きな所は、会う度に増えていった。
彼が私のイメージだと言ってくれたブレスレットは、今私の右腕で輝いている。
今だからこそ、あの時撮った写真が私のようで私に見えなかった理由がよくわかっていた。
恋をすれば綺麗になる。
でも、どんなに幸せだと感じていても、私のしている事は罪なのだと言う事は知っている。
恋は盲目。
時に恋は人を傷つけたりする。色んな形があって、色んな落とし穴もあるのだ。それでも誤魔化したり、気付かないふりをしたり、嘘をついたりする。
いつだったのかは良く覚えていないけれど、ここまで堕ちてしまった日の出来事はよく覚えている。
桜がまだ蕾の頃だったと思う。
キスはしたが、まだ一線を越えてしまうのが怖いと私は感じていた。
それでも、好きな気持ちが理性に勝ってしまうので彼の部屋に彼に会いに来ていた。
相変わらず、『戸川さん』と私は彼を呼んでいた。
彼は私を『吉岡さん』と呼んでいた。
その日、何気ない会話が途切れた瞬間、彼は優しく唇を重ねてきた。
長く、甘く、優しいキス。
目線も重なる。
それから、彼は耳元で囁いた。
「唯…。」
体が反応してしまう。顔が熱い。
彼はまた耳元で囁いた。
「名前を呼んで?」
私の反応を面白そうに、愛しそうに彼は見ている。
「あき…。」
その瞬間、あきは私を抱きしめてきた。
「愛してる。」
あきがそう言ってから、私達は身も心も一つになる。
誰かを名前で呼ぶだけで、誰かに名前で呼ばれるだけで、ただ愛しくて仕方がなかった。
『あき』と彼を呼ぶたびに幸せになれる。『あき』と彼を呼びたくて、また彼に会いに行く。