小窓からうっすら日が入り込む個室に入れられたティシュ。
今は事務用の机を挟み、パイプイスに腰かけ警備の人間と向かい合っている。
一見簡単な作りの建物だが、逃走防止の為入り口は鉄で出来た頑丈なドアになっていた。その横には見張りの兵隊が一人。腰には警棒をさしている。
かれこれ一時間あまり対面しているティシュと警備員。盗まれたと主張しても街には入れられないの一点張りで、どうする事も出来ず机につっぷしていた。
「いい加減お家の電話番号を教えてくれないか」
警備員の顔にも疲れの色が見えた。進まない話に調書をペンで叩きながら催促している。
「……やだ」
入島料が払えず戻ったなどと格好が悪くて言えるはずがない。それに目の前に街があるというのにやすやす引き返す事も出来ずにティシュは町の名前さえ出さなかった。
「被害届けはちゃんと出すよ。見つかったら連絡も入れる。だから、それまではお家に戻っててくれないと……」
「ゲートで不法入島する奴なんて初めてですしね。それも子供が」
後ろで笑っている兵隊に「笑い事じゃないぞ」と渇を入れる警備員。
机の上にはティシュの荷物が綺麗に並べられていた。それらを見ながら差ほど悪い子ではないと判断した警備員。
「君の荷物には生活感が感じられないね」
草の根が詰められた袋。紫色と濁った水のような液体の入った瓶。何に使うか想定出来ない器具が数種。
「生活良品は街で買うつもりだったから……」
力なく答えたティシュに同情はするが助けてやる事は出来ない。甘くすると街の規律が乱れるからだ。
ただでさえ色々な種族が行き交う大きな島だ。旅人同士の喧嘩や住民の被害も尋常じゃなかった。今も盗難被害のクレームを受けてきたばかりだ。子供一人に時間を割くわけにはいかなかった。
「ここでこうしていても仕方ないだろう」
こんな危険な場所に子供一人放り込めない、そういう意味でもティシュを早く家に帰してやりたかった。
「金払えばいいんだろ」
しかし返って来るのはこの答え。確かに料金さえ払えば年齢、種族に関係なく入島は出来る。しかしその肝心のお金がなかった。