一歩も引く気のない目に警備員は溜息をつき、懐から財布を出そうとした。
「駄目ですよ」
入り口の兵隊に言われ懐から手を出した警備員。
「まったく、子供には優しいんだから」
咳払いをし誤魔化した。解っていてもつい悪い癖が出るのを再認識させられたようだ。
とは言えこのままにしておくわけにはいかない。強制的に帰したい所だが場所もわからない。けれど牢に入れるのも気が引けた。
警備員を救うかのように勢いよくドアが開いた。全員がその人物に注目した。
「ガキが不法入島だって?世も末だな」
笑いながら入ってきたのは若い男。長く白い髪は一つにゴムで結ばれている。服装から警備員だという事が判った。
「ヴェルダさん」
そう呼ばれた男は机に両手をつきティシュを見た。
目の前にいる警備員とは違ってなんとも軽薄そうな男に、ティシュは不信感を抱き体を仰け反らせた。
「んで、何が目的なの?密輸?交渉?」
「こらこら。困ってるじゃないですか。それより警備はどうしたんですか」
「んー、スクワルドに任せてきた」
「押しつけてきたの間違いでしょ」
呆れる警備員を気にする事なく、子供のような目でティシュを見るヴェルダ。
「この子、盗難にあったみたいです」
「あちゃー。そりゃかなりの確率で戻って来ないぞ」
新事実に驚愕しティシュはうなだれた。
「それが……どうも変わった帽子を被った少年だったそうで」
「帽子……?」
心当たりがあるのか苦笑いをした警備員。