子山羊を撫でながら、美しい少女は言う。
「…貴様、勇気があるのぉ…。」
「えっ?!」
子山羊を見つめ撫でたまま“感心する”と、少女は呟く。
「貴様、名を何と申す?」
綺麗な手を子山羊の頭にのせ、今度は青年の顔を見る。青年は、急に眼が合ったため、バッと少女から眼を逸してしまった。
「…ライ。」
「そうか…貴様の名は“ライ”か…。」
フッと少女の口許が歪む。そして、子山羊から手を離し、青年・ライの方へ歩み寄る。
「…人間が“此処”へ来たのは…何年振りかのぉ…。」
ふふっと軽く笑みを浮かべ視線を逸したままのライに言う。如何にも、楽しい。という感じだ。
「貴様の勇気に免じて…この、私が直々に挨拶してやろう…。」
ライの前まで来ると、少女の髪と同じ漆黒色のゴシックスカートの裾を軽く摘んで、貴族が挨拶するみたく、少女はお辞儀をし…
「ようこそ。我が森…“ブランシール”へ…。私は、この森の主人…メイにございます。…通称…“ブランシールの魔女”と呼ばれております。」
「!」
少女の社交辞令の挨拶を聞いて、ライは思い出す。
…そうだった…此処は…魔女の森だ。俺は…とんでもない人物に出逢ったんだ…。そもそも、此処に“人間”がいるワケが無い…。もし、いたとしたら……。
ライの額に…汗が込み上げてきてる。
…もし…いたのなら…その人物は…
「魔女…?」
ライの顔が青くなる。少女・メイは、クスクスと声を出し…お辞儀した時に少し乱れてしまった長い髪を、手で直しながらライを見つめた。
「そうだ。…貴様…なかなか勇気がある。」
なんせ…理由はどうアレ…この森に来たのだから…な…。
メイの褒め言葉らしきセリフに…ライは目眩を感じる。
「安心しろ。貴様と子山羊を、取って喰おうなど…微塵も思わぬ。」
ふぅ…とメイは、溜息を吐いた。ライの異常な程の蒼白ぶりを見て、呆れたのだろう。
「じゃあ…帰してくれるんだな?」
ライが、ホッと胸を撫で下ろすと子山羊を抱き締め帰ろうとした…その時
「…待て。」
「…え?」
メイの美しい瞳が、キラリと光った。その余りにも…美しい顔に…ライは、やっと潤った喉が、また…渇くのを感じた。