きじねこの家に入れられた俺は、部屋の隅っこでうずくまった。グルリと部屋を見回し、クンクンと匂いをかいでみる。
中学生の娘は、俺の背中をなでながら、「光子〜」とよんでいる。ふと振り返ると、あのきじねこが、仁王立ちになり、カッと目を見開いて俺をみていた。
小さな声で、ニャーとないてみると、みるみるうちに毛を逆立て、斜め歩きでゆっくりと向かってきた。
なんと気の強い。中学生の娘は「こらっ、怒んないの。友達だよ」などと、呑気な事を言っている。その光子は、何も聞こえていない様子で、身を低くし、今にもとびかかってきそうだ。俺は久しぶりに身の危険を感じた。
光子が俺に狙いを定め、後ろ足をけりあげた瞬間、俺は身を低くして、部屋の隅の壁沿いを小走りでにげまわった。
俺は雄だし、体も光子の倍はある。喧嘩だって自信がある。でも、怒った女ほど怖いものはない。俺のみる限り人間だってそうだ。逃げる俺の背中に光子がとびついた。
いくらパンチを浴びても、蹴りを入れられても、俺は抵抗しなかった。なぜなら、ここは光子の、いや、光子様の家だからである。
娘はあたふたし、しかし、光子の剣幕にビビっている。まもなく、玄関があいた。