『い、い、い、いやあああああーー。』
奈央は絶叫していた。
両手で自分の頭を押さえつけ、小さな体を丸めながら震えているー。
俺は、今此処にいる奈央に一体何が起こったのか理解出来ず、ただ呆然と立ち尽くしているだけだったー。
奈央は何かに怯えている様だった。
得体の知れない何かにー。
ソレが一体何なのか、俺には知る由もなかったー。
『奈央‥大丈夫だよ‥。何も怖がらなくていいから‥。』
俺はそう言って、小さくうずくまっている奈央を後ろから抱き締めた。
そうせずにはいられなかった。
‥コクン‥‥。
奈央が頷いた。
奈央は、まだガタガタ震えていた。
後ろから抱き締めている俺にはそれが良く分かったー。
俺はしばらく奈央を抱き締めていたー。
こんな小さな体でガタガタ震えている奈央に、俺はこうして抱き締める事しか出来なかったー。
何分こうして居ただろうか‥‥‥。
次第に奈央の震えが小さくなっていくのが分かったー。
『奈央ごめん‥。俺がいきなりキスしたから‥‥。‥びっくりしたんだね‥。』
『違う‥。違うの。智くん‥。』
奈央は、すっかり落ち着きを取り戻していた。
『ごめん。本当にごめん‥。』
俺は、奈央にただ謝るしかなかった。
『だから‥違うんだってば‥智くん!!』
少し声のトーンを上げて奈央が言った。
『何が違うの?他にどんな理由があるの?』
俺は、ちょっとひねくれた言い方になってしまったかも知れない。
なんだか段々悲しくなって来た‥。
自分が奈央に無理矢理キスしたから‥。
だから奈央が俺を拒絶したのかと思ったからー。
『あたしには誰にも言えない過去があるの。』
奈央は凛とした眼差しで俺を正面から見据えながら、そう言ったーー。