「お前、どこの国の人間だ?」
赤松の突然の問いに男はびくついた。
「…サファル国…どうせ知らないだろ…日本人は…」
(やっぱりな…)
それを聞いた赤松の表情はどこか悲しそうだった。
「…知らないだろ…そんな国…でもね…でも…ブドウがとてもおいしい国なんだ…ワイン用のブドウもとても評判よくてね…あ…!あと母さんがつくるパンが……」
さっきまで震えていた男は楽しそうに国の自慢をし始めた。
「そっか、あんた大好きなんだな国のこと」
陸がそう言うと男はハッと我にかえった様子で、また震えだした。
「…違う!違うんだ!…国の自慢をするために日本に来たんじゃない…!…僕は…1人でも…1人でも多く日本人を殺すために来たんだ!」
男の息が急に荒くなる。
「真琴、あの男に照準をあわせろ」
赤松は冷静に指示した。
「待てよ!こいつ…話せば分かるって…!」
陸は慌てて2人を止めに入った。
「うわあぁぁーー!!!!!!!!!!」
男の叫び声、その声が聞こえた瞬間銃声が鳴り響いた。
男は衝撃でゆっくりと後ろ向きに倒れ床には血が滲み出していた。
それを見た陸は男の元へ駆け寄った。
「おい!しっかりしろ!おい!」
男は小さなうめき声をあげるだけで何も答えない。
陸は赤松と真琴を睨みつけた。
「何で殺した!話し合いでどうにかできたかもしれないだろ!」
真琴もこの結果に納得していなかったのか、動揺しているようだった。
「『かもしれない』じゃだめなんだよ」
赤松の冷静な一言。
「…こいつ…あんな状況で国の自慢や家族の自慢なんかしてた…本当は優しい奴なのに」
陸は怒りと悲しみと悔しさでいっぱいだった。
「う…うぅ…あ…」
男が苦しそうにしゃべり始めた。かなり苦しいはずなのにそれでも必死に口を動かした。
「…う…うぅ…ご…ごめん…なさい…父さん…母…さん…ごめんなさい……」
何度も止まりそうになるがそれでも口を動かし続けた。
「…最…後…まで…弱虫…で…ごめんなさい…怖…くて……押せな…かった…」
男の声は声にならなくなった。
ただ口をパクパクと動かすだけだった。
しばらくするとどこから入ってきたのか白い猫が男にすり寄ってきた。
男はその猫を見るととても穏やかな顔になりそのまま動かなくなった。