とりあえず、私と彼女は近くにあった喫茶店にいた。
真弓は流石に大人だと思った。
後で必ず報告してよ、と言ってさっさと帰って行った。
しばらくの間、私と彼女はただ向かい合って沈黙していた。
「私…、さっきのは全く後悔していませんから。」
先に口を開いたのは彼女の方だった。
「そうでしょうね。」
私が言うと、丁度良くウェイトレスが注文をとりにきた。
「コーヒーをひとつ。」
私はそう言って彼女を見る。
「私も同じものを。」
彼女が言うと、かしこまりました、とウェイトレスが下がる。
「あなたは私の事をご存知の様ですけど。
お名前、聞いても構わないですか?」
私の言葉に彼女は頷く。
「近藤加菜と言います。」
私も彼女もきっと聞きたい事は山程あるのだろう。
「晶斗…。戸川晶斗をご存知ですよね?」
そう言った彼女は緊張した顔をして、右耳に髪の毛をかける仕種をした。
「知っていますよ。」
私は敢えてそう答えた。
彼女の返事は知っている。
「私、彼とお付き合いしています。」
私は一瞬息を飲んだ。
先程のウェイトレスが笑顔でコーヒーを運んできた。
テーブルの上のコーヒーはただユラユラと湯気をたてていて、まるで今の季節と私に逆らっている様にも見えた。