「芋煮会が恨めしいったらないわ!」
妹の高校で文化祭が催される時に、桜庭では芋煮会が催される。しかも強制参加だ。みくは玄関でブツクサ言いながら自宅を後にする。
娘達を送った後、規子は克彦の前で溜め息を漏らす。
「父さん、今の桜庭は私がいた頃とは随分変わってしまいましたね」
「あぁ、年々教え子の友達付き合いが表面的になっていくのを感じていたよ。同僚も、『同窓会を開こうとすると、なかなか教え子が集まらない』と嘆いていたもの。屈折した公立コンプレックスを共にした者同士とは関わり合いたくないんだろうな」
「みくもそんな事を言っていましたね。友達とは絶縁覚悟で大学を目指す……本気なのね」
さて、修学館の文化祭は今年も大盛況だ。文化部の発表会だけでなくクラス毎の催し物もあるのが魅力的で、2日間多くの市民が賑わせている。その中に亜鶴達4人の青海組の姿があった。
「今年の目玉は手芸部員の指編みの実演だって。モーリーが無理矢理入れさせた1年生の男の子がやるのかなー?」
祥恵の予想通りだった。手芸部員の溜まり場である被服室は、既に親子連れや小学生くらいの女の子でいっぱいだ。実演の後、抽選があり、入り口で女子部員が整理券を配っていた。4人はギリギリセーフでチャンスを手に入れた。
秀は言葉交じりで実演を行う。
「今回は鍵針編みの要領でストラップを作ります。先ず基本の鎖編みは10センチくらいの長さで編み切って……」
孝政のスパルタ指導の成果で、秀は慣れた手付きで指編みを披露する。可愛らしい花を3個編んで、先程の鎖編みに縫い付けて完成。
拍手で盛り上がった後、ストラップの抽選を行う。秀が引いた紙切れの番号を司会を務めた部長が読み上げる。
「49番の方、おめでとうございまーす! 前に出て受け取り下さい」
49番の整理券を手にしていた州和は動揺する。秀からストラップを受け取った時は恥ずかしさでいっぱいだった。
展示品をたっぷり観賞した4人は、次の催し物に足を運ぶ。教室内に大音量の特撮ソングが流れるオタク喫茶で博文と臨を発見した。