｢ぇ…あっ…ぁ…｣
女性はもう何が何だか分からなくなっているようだ。
｢何でおばちゃんは逃げるの？何でおばちゃんは話しを聞いてくれないの？何でﾊﾞﾊﾞｧは返してくれんのや？おい！何とか返事しろや！｣
急に話し方が変わり、そして急に大人びた声になった。男の子を見ると…男の子ではなく男性…そう。なんと先程まで小学校一年生ぐらいだった男の子が今は高校三年生ぐらいまでになっていたのだ。
｢ぁ…の…ぁ……あ……｣
女性は返したくても体が硬直して動かない。口元もｶﾞﾀｶﾞﾀ震えて全く喋れない。そして
｢そんなに返したくないの？………おばさん｣
｢ぁ………こ……こ……｣ ｢もういいよ｣
その言葉は女性にとって許してくれているるものだと思い込んだ。そして一気に肩の力が抜けて喋れるようにもなった。
｢あの……返すね｣ ｢だからもういいよ｣
｢……え？｣
先程まで返せ返せと恐ろしかったのに態度を急変させた。だから普通、安心するはずなのに女性は急に先程のような恐怖が襲った。
｢あれは俺の母さんの形見なんだ。だから俺は返してほしかった…でももうｲｲよ。その代わり……｣
と、言って止まった。
｢その代わり………？｣
と女性が言うのを待っていたかのように男性はその言葉を聞くとﾆﾔﾘと笑った。そして女性の耳元で囁いた。
｢ ｣
―…翌日、彼女の通夜が行われた。
<続く>
[471] 
[0] 
[0]
