JR駅ホームのはじっこにタバコを密かに吸う場所があるでしょ。灰皿が設置されてる白線の中。あそこの線の上でゆっくりとタバコを吸ってたわけ。
僕はみんなと一人とどっちかいいの?って言われたら絶対一人で吸ってるほうが゙いい!っていうタイプ。だから外向きに吸っていた。
その時女性がつかつかとやってくるのが視界に入った。最近では女性がタバコを吸うのは珍しくない。灰皿のあるこの喫煙場所に背筋をきちんと伸ばしてやってきた。しかしその女性の視線が気になった。僕の目をまっすぐに捕らえていたのだ。僕は自分で言うのも何だか阿部寛に似ているわけではない。どこにでもいる普通のセロリーマンである。なのに女性がまっしぐらに僕に向かってくる。
すると女性は僕の真ん前に来ると立ち止まった。もちろん知らない顔だ。「?」目で僕は女性に訴えた。女性は右手にタバコを挟むと爽快に言葉を発した。「すみません!灰皿を貸してもらえるかしら?」「???」灰皿?灰皿といったら駅のホームに頑丈に備え付けられている。その灰皿をどう女性に貸したらいいのだろうか…。困った僕は黙ってホームの灰皿を見つめた。灰皿を動かすべきか。すると僕の視線に気がついた女性はくるりと回れ右をすると無言のまま足早に去って行ってしまった。僕は女性の後ろ姿を見送るとタバコを灰皿でもみ消した。そこで気がついた。「あぁ、そうか!灰皿じゃなくてライターだったんだ!」思わず声に出した僕は笑顔で秋晴れのさわやかな青空めがけてホーム階段を駆け上がった。