銀河元号七四六年―航宙遊牧民族陣営は《チンギス=ハーン作戦》を発動して、中央域文明圏への本格的な反撃に移った。
この作戦で宙際連合は一七六三00隻の艦船と、二0六0万人もの兵員を失い、二二の恒星系を奪われ、そこに住む市民を中心に六億人が強制連行されて行った。
更に同七五三年、より大規模な《ヌルハチ作戦》が展開され、これには航宙狩猟民族の大半が参加し、艦船二八万隻以上・将兵四千万人に迫る大打撃を宙際連合に与え、その加盟国の一割に城下の盟を誓わせる事に成功するまで至った。
だが、中央域文明はこれだけやられても倒れなかった。
航宙遊牧民族の指導者の一人、オットギン提督はこう側近に漏らしている。
『まるで蝗の大群だ。我々がいくら倒しても次から次へと奴らは襲いかかって来る』
航宙遊牧民族の最高戦略会議に召聘された銀河国際経済研究所々長・ルミナ=アンドレイは、オットギン提督の示した懸念により詳細かつ深刻な分析を加えて示した。
『言わば、無知と貧困に悩む有人惑星住民層に一種の《宗教》を吹き込み、現世と死後の約束で彼等を戦争へと駆り立てているのは明白です。
正に彼等は中央域こそ全ての文明を支配するべきと言う宗教的情熱・もしくは狂気の下どんな残酷かつ非人道的な闘いでも喜んで遂行する《現代版十字軍》であり、宙際連合中央政府・宗教界・財界・学界等がネット集合体を使って彼等を巧みに操っているのは争うべかざる事実なのであります』
銀河元号七五0年時点に置いて、確かに長年の闘いに疲弊していたとは言え、宙際連合は今だ四二五億の人口を有していた。
反面、航宙遊牧民族勢力は年々増加してはいた物の、十億に満たないのが現状だった。
だから、宙際連合上層は考えた訳だ―敵の頭数を減らせ。
その為に味方兵士がどれだけ死んでも構わん!
仮に死んでも代わりは幾らでも居る―そう、幾らでも居るのだ。
消耗戦に引きずり込めば、早晩敵の人的資源は枯渇する―\r
この戦慄する迄の冷厳さに満ちた戦略は、確かに徐々に成果を現し始めた。
最終的に宙際連合はおよそ八0億人を軍事動員し、その内三七億人を失ったが、航宙遊牧民族は戦う度にその都度圧倒的な勝利を収めながらも、第一線軍人や技術者を少しずつ擦り減らし始め、やがてあらゆる分野で深刻な人手不足に陥ったからだ。