千聖のクラス(3年7組)が出しているオタク喫茶は、教室内に特撮ソングが流れ、アニメや特撮のフィギュアとポスターが囲む。混沌が渦巻く空間で寛いでいる博文と臨は、州和の浮かない表情を瞬時に見抜いた。
「おぉ! 君達、もう出し物見て来たの? 關ちゃんの様子がおかしいけど……」
「ねぇ、亜鶴。關君どうしたの?」
「手芸部員が実演した指編みのストラップを關ちゃんが当てちゃってねぇ」
亜鶴はニタニタしながら州和の右手に握られたストラップを博文と臨に見せる。
「モーリーが無理矢理入れさせた1年生の男子だろ?」
彩子が「そう」と言うと、博文と臨はゲラゲラ笑い出す。想像するだけでも滑稽である。この二人の態度に怒りの矛先を向けるのは祥恵だ。
「臨も博文も男の子からの手編みのプレゼントを笑うな! ニットの貴公子が私達くらいの頃は、クラスの男子に手編みのマフラーをせがまれてたんだから!」
祥恵に叱咤を受けた博文と臨は黙ってしまった。男の手芸を有り難く受け取る男を笑う事自体、差別意識の現れである事に気付かなかった。祥恵は州和にも怒りの矛先を向ける。
「關ちゃん、恥ずかしがる事も差別だからね! 有り難く受け入れる事で差別意識は消えるのよ!」
彩子は祥恵の叱咤に黙って頷いていた。
千聖が催し物の受付に入って来た。
「おっ、彩子さんに亜鶴に祥恵に關ちゃん、今年も来てくれたんだー。何処見て来たの?」
「千聖ー、手芸部員が実演で編んだストラップを關ちゃんが当てたよ!」
「いいな。私も見たい」
「その格好で行くの?」
アニメキャラのコスプレ姿の千聖を州和は気にしている。
「当然でしょ! 文化祭だもん」
博文は、これからクラスの催し物の応対に出なければならない。席を立ち、出がけに博文は亜鶴達に尋ねる。
「2日目も来てくれるよな? 定時制のディスカッションがあるからね」
彩子は笑みを浮かべて即答する。
「勿論! みんな、今年のディスカッションはどうしても見たいわよ。ねぇ?」