私は敢えて加菜にハンカチを手渡すそぶりをする。
予想通り加菜はけっこうです、と突き返す。
「それからあなたの名前の名刺を見つけて…。」
「会社迄押し掛けた。」
加菜が涙で言葉をつまらせた瞬間に私が言葉をつなげる。
加菜の目が私を睨む。
「私も加菜さんも、ましてや彼も子供じゃないんですよ。」
加菜に睨まれても、私の口は言葉を止める事はなかった。
「恋愛ごっこなら他でやって下さいよ。
加菜さんは加菜さん。私は私。彼は彼。
それぞれの気持ちがある事くらいわかるでしょう?」
そこまで言ってから、私は目の前のコーヒーにようやく手をつけた。
「私からお話し出来る事はそれだけです。
あなたと彼の問題に私は関わる気はないですから。」
そう言うと、私はもう一口コーヒーを口にしてから立ち上がり、伝票を持って入り口のレジに向かった。
自分を棚にあげてよく言えたものだ。
喫茶店を出て少し歩いたくらいに、『嫉妬』は『自己嫌悪』にかわってしまっていた。
家に帰ると、相変わらず亮ちゃんが笑顔でおかえり、と言ってくれた。
冷たく凍って張りつめたままだった私の心が安心していくのがわかった。
「あれ、そう言えば今日飲みに行く予定じゃなかった?」
亮ちゃんの言葉が胸に刺さる。
今日は本当に真弓と約束をしていたが、あきと会う為に同じような理由で嘘を何度もついていた事を思い出す。
一体、私は何がしたいのだろう。