一人の距離

みぃ  2007-12-29投稿
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「………ん。わかった。…うん。仕方がないし、いいよ。…じゃあね。」


『ゆり子、ごめん』
と、携帯から聞こえる必死の謝罪の声を遮って、私――小林ゆり子は「電源」ボタンを押した。

口に浮かぶのは、好きな人とさっきまで話せた余韻の笑み。

その口から漏れるのは…一年分の溜め息。


…久しぶりに会えると思ったのに。

大学進学のために、群馬から大阪に出てきて、もう一年が経とうとしてる。

漠然と周りが行くから大学を目指して、
さびれた田舎から飛び出したくて、
都会のキラキラした世界にただ単純に憧れて、
『新しい自分に出会うんだ』とわざわざ知り合いの少ない大阪を選んで、
高校からの恋人の誠(まこと)との遠恋も『なんとかなるっしょ』とカルく考えて。


そう。なにもかも、若すぎた。

携帯も私も、ベッドに投げ出した。

誠は私より一つ上。高校卒業と同時に地元の工場のラインに就職した。

就職後も私が高校在学中はメールや電話はもちろん、お互いの誕生日やクリスマスは一緒に過ごした。


でも………。


大阪に来てからは正月に会っただけ。
メールや電話も、群馬にいたときより減った気がする。


そんな中での私の誕生日。2月16日。

『明日、会いたい』

期待を込めてそんな一言を勇気を出して言ってみたけど、帰ってきたのは

『ごめん。仕事だから』

普段なら頑張ってほしいって思えるのに、今日だけはすごくそっけなく聞こえた。


「やっぱり…駄目なのかな…」


スイッチのついてないテレビを見つめると、モノクロームの部屋に情けない顔をした私が、ベッドに埋もれていた。



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