奈央は一言そう頷くと、ぽつり‥ぽつりと話し始めたー。
* * * *
あたしの実の父親は、あたしが物心付く前に病気で亡くなったのー。
母はその後直ぐに再婚したんだけど、
その時あたしは小学校一年生になってた。
『奈央。この人が新しいお父さんよ。』
『奈央ちゃんて言うのかぁ‥。よろしくね。』
『ほら奈央!!挨拶しなさい!!』
『いや。奈央のお父さんは天国へ行ったんでしょ?お母さん言ってたもん。奈央のお父さんは一人しかいないもん!!』
『これ奈央!!待ちなさい!!』
あたしはまだ子供だったし、母の再婚と言う現実を直ぐに受け入れられなかったの。
新しい『父親』は、そんな懐かないあたしにも優しく接して来た。
それでもあたしは、この新しい『父親』に、心を開く事は無かった。
だからこの『父親』にとってあたしは、さぞかし可愛げの無い、小憎らしい娘だったに違いない。
けれど、これ程までに懐かないあたしに何故この『父親』は、こんなにも優しく接してくれるのかー。
その一つの疑問が、いつもあたしの心に引っ掛かってた。
もしかしたら、あたしは酷くひねくれた最低な人間なのかも知れないー。
こんなにも優しく接してくれる『父親』に対して、頑なに心を閉ざしているのだからー。
小学校三年生になったある日、あたしは少し自分に反省して、この『父親』に対して、
“心を開いて行かなければならない。”
そう思い始めたの。