それに、あたしがこの『父親』に懐かないと、母にも悪いと思ったから。
母が好きになった人なのだから、きっと良い人なのだ。
今日からこの『父親』の事を『お父さん』て呼んでみよう。
あたしはその日、
この『父親』の事を初めて『お父さん』て呼んだの。
『やぁ‥奈央。初めて僕の事をお父さんて呼んでくれたね。僕はとても嬉しいよ。』
『父親』は目に涙を浮かべて喜んだ。
今思えば、あの涙はこの『父親』の迫真の演技に過ぎなかったんだけどね。
でもその時のあたしには、この『父親
』の涙が嘘の涙だとは思えなかった。
この涙は本物の涙だと信じていたからー。
小学校五年生になると、あたしは初潮を迎えたー。
『あら、奈央おめでとう。今夜は御赤飯炊かないとね。』
胸も膨らみ始め、あたしの体は少女から大人の女性へと成長して行こうとしていたー。
その頃からだー。
『父親』のあたしを見る目が変わったのは。
何故かいつも視線を感じる様になった。
上から舐める様に見る『父親』の視線ー。
まさか‥。
これはあたしの考えすぎ‥。
気のせいなんだ‥。
あたしはいつも自分に言い聞かせていたんだー。