白い部屋、円くちゃちな窓。
「おはよ」
という決まりきった台詞。
人
人が、居る。
この部屋には、人が二人、居る。
自分
相手
ただ、それだけの事。
ただ、話している。
ただ、動いている。
ただ−
生きている
それだけの事。なのにそれを消すと、怒られる。
「あぁあ、ひでぇ」
死体があった。そこは部屋でも、外でもない。
空中に、死体は存在した。
朝露に髪を湿らし、ぐったりと頭を擡げ、吊られている。
腹部は大きく開き、出ている。
「誰だよ、こんなことしたの」
「おい、なんかあったか?」
二人の検察官が顔を見合わせ、警察官に首を振る。
警察官はいきり立っていた。理由は一つ、今回の事件と全く同じ手口で行われた殺害事件が、過去十二回も起きたにも関わらず、未だ犯人が判らないでいるのだ。
此処にいる警察官は四人、検察官は三人。
部屋はさほど広くはないが、痕跡探しにてこずっていた。
「ねぇよ、ったく」
検察官の如月は悪態をついた。
犯人は、足跡はおろか、指紋さえ残した試しがない。あるとすれば、間抜けな二人目の検察官、羽塚が見付けた自分の髪と足跡のみ。
「政府も大騒ぎしてるっての」
三人目の検察官、間宮は言った。そして警察官の田淵をちらっと見る。
「何だ?あったのかよ」
田淵は苛立って間宮を睨んだ。
間宮はびくつきながら、
「い、いえ!頑張ります!」
と作業に戻った。
「羽塚!」
田淵の声が響いた。
羽塚は肩を弾ませて振り向く。
「はいっ」
「お前、あん時みてぇにヘマすんじゃねぇぞ?自分の髪と足跡に驚きやがって…」
「はい!以来、気をつけています」
「そんだけだ。戻れ!」
「はっ!」
羽塚は如月の所へ歩み寄った。
「大丈夫だったか?」
「おう。何言われんかと思ったよ…」
調査は一行に進まぬまま終わった。
田淵は今にも憤慨して暴れ狂いそうだ。
「ふふっ…」
「頭、かてぇな」
「気付く訳ないだろ、如月?」
「気付く訳ないよな、羽塚?」