粉雪の降る窓辺から

一宮 詩音菜  2007-12-31投稿
閲覧数[620] 良い投票[0] 悪い投票[0]

 ここはN県N大学病院、内科病棟の一室である。

「ねぇ。お兄ちゃん。私、いつ頃退院できるの?」
「ん。もう熱もないし、来週あたりかな...」

 訊いたのは妹の由良で、質問されているは、ここの病院の研修医で由良の兄でもある章である。

「よかったぁ♪ これで、再来週くらいからは、ガッコ、行けるのね♪」
「へぇ。勉強嫌いのお前が、学校へ行きたがるなんて、どうした風の吹き回しなんだ?」
「だって、病院って退屈で退屈で死にそーだし...。それに...」

最後の方は声が小さくなる由良に、

「それに...?」
「クリスマスも近いじゃない...」
「へ。クリスマス?」
「そ、クリスマス」「クリスマスって、お前、何か予定あるの? デートするヤツがいるとか?」
「い、いないわよ。やーね。お兄ちゃんたら。ただ、中の良い友達とワイワイやりたいだけよ」
「ふ〜ん」

2人の間にちょっと沈黙が流れる。
そこへ入って来たのは、由良と同級生の浩輔と理紗子だった。
それを見て章が、

「じゃ、僕はそろそろ、他の患者さんのところに...」
「あ、待って。お兄ちゃん。本当に来週、退院よね?」

 そう言って、窓の方に目をやったら、雪が降り始めていた。

「わぁ。雪♪」

 嬉しそうな声を上げる由良である。
 それにつられるように、皆の目線が窓へと行く。

「ここに来るまでは雨まじりだったのに...クリスマスまで降り続けたらいいのにね」
「え〜。そんなの無理よ〜」

 理紗子の言葉にそう言いながら窓辺に近づく由良。雪は、絶え間なく落ちて来ている。
 窓辺からふと下を見た由良は、自分とそう年の変わらない女の子が、こちらを見上げているのに気づいた。

「ねっ、ねっ、こんな雪だるまになりそうなくらい雪が降っている中、中庭に人がいるわよ。しかもパジャマにカーディガンだけ羽織って」
「うそだろ〜。こんなに雪降ってて、おまけに凍えそうなほど寒いのに」
「そうよ」

浩輔と理紗子の言葉に、

「じゃ、来てみなさいよ」

 由良も負けずに言う。由良の言葉に、浩輔、理紗子、兄の章までもが窓際へとやって来たが、ほんの一瞬、由良が目を離した隙に、由良が言っていた少女はいなくなってしまっていた。

i-mobile
i-mobile

投票

良い投票 悪い投票

感想投稿



感想


「 一宮 詩音菜 」さんの小説

もっと見る

恋愛の新着小説

もっと見る

[PR]


▲ページトップ