何だか久しぶりだな
遥人は言った。
慣れた手つきで煙草に火を点ける
あたしがちょっと嫌な顔をすると
「ああ、お前ボーカルだしな」
と言ってすぐ消した
「随分歌ってないよ、あたし」
「そうか。もう5年か」
来月のあたしの誕生日で、
皆二十歳になる。
「陽一は?連絡ない?」
「ねぇよ。お前もか?」
「ないよ」
沈黙が流れる
5分後。
「今、何してんの?お前」
「今は専門」
「歌のか」
「ううん。美容」 「そう」
「遥人は?」
「フリーター」
「そう。大地はどうしてんの?」
「大地?医学生だって」
「やっぱ家継ぐんだね」
解散の原因は、大地が辞めたいと言ったからだ。
皆必死で止めたけど、
大地の家は大きな病院で
長男である大地は継がなければならなかった。
「……サンクス。もう一回やりたい。俺は」
「あたしは、もう歌えない」
「え?」
「歌には限界はないと思ってた
でも。限界知っちゃったの」
「そっか。やりてぇのは俺だけか」
「ていうのは嘘だけど
本当はね、喉に自信がなくて」
「喉?」
「解散した後に手術したの」
「え?きいてねえぞ」
「いってないもん。
前みたいに歌えるか心配」
そんな心配、再結成決めたらしろよ
「サンクスの時のアサコ
メッチャかっこよかったって思う
俺ら三人より何百倍もな」
「あら、ありがと」
「じゃ、また電話するわ」
「わかった。遥人、ありがと」
「なんだよ急に」
「別に。じゃあね」
帰り道、缶を蹴った。
むしゃくしゃしたから
「サンクスのアサコじゃん。あの人」
後ろからいわれたのが発端
「あー、サンクスね」
「アサコも全然最近見ないと思ったら、普通の人だね」
後ろからひそひそ話をされるのは嫌い
闇に溶けてしまいたい