「絶対、許さないっ!!!!!」
その言葉と同時に加菜は私に足速に近付きながら右手を振り上げた。
一瞬加菜の右手がキラリと光った。
その光りのせいで、反射的に私は目を閉じた。
かすかに風が揺れるのを感じた。
「あ…。」
加菜が怯えた様な声をもらした。
恐る恐る方目ずつあけてみる。
それからゆっくり自分の体中や顔を触りながら確かめてみる。
――――何もない…。大丈夫…。
!!!!!?????
ふと加菜の方を見た時だった。
私の目の前には、あきがいた。
あきの右の肩の辺りは、スーツのジャケットとシャツが切れていて、血がじわじわと滲んでいた。
「あ…あき…。」
どうしてここにいるの?
どうして私を庇うの?
聞きたい言葉をのみこんで、私はあきの顔を覗いた。
「ど…どうしよう。大丈夫?」
私は、まだ滲み続ける血を止めるように手で押さえながら、あきに手をかす。
「大丈夫。」
あきらかに痛みを我慢してあきは言った。
「病院行こう。」
私がそう言うと、あきは嫌、と言って断った。
「とりあえず、家に寄ってから病院に行くよ。」
あきはそう言ってから、加菜の方を見た。
「ごめんな。」
あきは加菜にそう言った。
ただ淋しそうに…。
その言葉にハッとした加菜は、ただただ立ちすくむばかりだったのをやめ、何も言わずに怯えるように走って行ってしまった。
思ったよりも傷は酷くはないようだった。
「家迄帰るんでしょ。
手伝うよ、送ってく。」
ハンカチで止血をしながら私は言った。
「はは…。女の子に送ってもらうなんてな。」
あきは苦笑いしていた。
その顔が懐かしくてたまらなかった。
あきが私の左の頬を優しく撫でた。
「こんな時でも泣かないんだな。」
そう言った私を見るあきの目は、本当に愛しそうだった。
そして何かを思いだし、懐かしそうでもあった。
あきが私の頬を撫でる度に、あきの香水の匂いがふわりと私を包んだ。