「月から来たの?危ないぞ。反月運動、かなり高まって来てるから」
事実、月からの女子留学生が乱暴された事件がつい3日位前にあった。
「そんな事よりさぁ、どうしてこんな黒ずんでるの?雪」
お構い無し。
「黒ずんでるか?」
「めっちゃ」
「そうか」
いつの間にかハルも座り込み、話に夢中になっていた。
ひとしきり喋り、二人とも話し疲れてベンチにもたれかかった。時計は11時50分をさしていた。
「あ、紅白間に合わなかった。ま、いいや」
「えっ!!!」
今にも寝そうになっていた女の子がガバッと飛び起きた。
「今…今何時!?」
「11時…50…51分だけばっ!!」
言い終わる前に首根っこを掴まれ、走りだす。
「なぁっ!?…ちょっ」
「走って!速く!!」
剣幕に押され、黙って従う。はたから見たらかなり滑稽な姿だ。すれ違う人が皆笑っているのが見えた。
当たり前だ。身長170の少年が150位の少女に首根っこを掴まれ引きずり回され、人混みの中を疾走しているのだから。
「待てって!」
人のいない路地に入った所で、やっと少女の手を払う。
「ハァ、ハァ、怒るぞ」