銀河元号七六0年―航宙遊牧民族は《ヘルマン作戦》を開始した。
その最終目標は太陽系を制圧し、宙際連合を完全に滅ぼす―正に最終決戦だった。
これに宙際連合は、六段構えもの防御ラインと三五万隻の大艦隊で持久戦に持ち込む《マルケリウス作戦》で臨んだ。
だが、既に第一線級の軍人とエンジニアを補充し切れなくなっていた航宙遊牧民族側の戦力の六割が、徴募された傘下の航宙狩猟民族や星系・人工植民体―言わば《外人兵》から成り立っていた。
特に、今回優秀な技術力・軍事力を所有している航宙狩猟民族は根こそぎ動員された上、厳しい監視下に置かれた。
子供を人質に取ったのだ。
元々かなりの勢力を持っていただけに、弱りがちな航宙遊牧民族は彼等への依存を強める一方で、相対的に力のバランスで優位に立てない分、不安に満ちた警戒を抱かざるをえなかった側面は否定出来ない。
だが、この措置は航宙狩猟民族の服従の代わりに激怒と不信を招いた。
大ハーンは我等を友人としてではなく奴隷だと見なしている!
決戦は航宙遊牧民族側有利のまま推移し、七六二年にはその先遣隊が太陽系外縁をかすめ、同国をパニックに陥れるに至らしめたが、同時に航宙遊牧民族陣営内の不協和音も限界点に達していた。
この時、航宙狩猟民族が裏切ったのだ。
彼等は一斉に離反し、航宙遊牧民族の戦線は僅か三日で瓦解した。
航宙遊牧民族の指導者ウルゲンチ=ハーンは戦死し、それから一年の内に彼等の主要勢力は全て宙際連合の軍門に下った―\r
こうして《征夷王道化戦争》は宙際連合勝利の内に幕を閉じた。
定住型勢力が移動型勢力を滅ぼし、中央域文明圏が銀河唯一の文明として、全人類を支配する時代が訪れたのである。