「…以上だ。今回は急を要する。
直ぐに現地へと向かってくれ。任務の後片付けには別の者を向かわせる」
「わかりましたー」
全裸の天使の男は再びやる気の無い返事をして、狩屋からの電話を切った。
男の筋骨隆々の体はこの暗い部屋で唯一のぼんやりとした明かりを放っているスタンドの光に浮かび上がっていたが、暗くて顔までは伺い知る事は出来ない。
「任務が終わった途端にこれか
忙しい…忙しい…」
そうぼそっと独り言を呟くと、男はベットに横たわる全裸の悪魔の女を見下した。
悪魔の女はスヤスヤと寝息を立てている。
起きる気配は微塵も感じられ無い。
男は急いでスーツに着替えると、まるで手品の様に移転魔法で二つの手錠を取り出して、悪魔の手首と足首にそれぞれガチャリとはめた。
「これじゃまるでSMプレイみたいだな。」
男はそう呟くと、眠る悪魔の唇を拝借して部屋を出た。
部屋の外は広いロビーの様になっており、床には大量の銃器と、派手な服を着て体格の良い、俗に言う『怖いお兄さん』と呼ばれる悪魔、そして天使達が先程の女同様に一人残らず寝息を立てていた。
『天使と悪魔がグルになって反政府運動をするとは… 最早天使も悪魔も関係無いのかもな…』
そう思いつつ、男は表へと出た。
風俗店の目の前には、ボロボロのスラム街とは相容れないスポーツカーが止まっていた。
そしてそのスポーツカーをボロ切れの様な粗末な服を纏った悪魔の少年が珍しそうに、食い入る様に見つめている。
男は少年の肩をポンと叩いた。
少年はハッとして男の方へ振り向いた。
「やべ…天使だ…」
少年はそう呟いて逃げ出そうとしたが男は肩を掴み少年に「待ちなさい。」と言って制止した。
少年は男を相当警戒しているらしく疑り深いまなざしを向けている。
そんな少年を見て男はニコッと笑って
「手の平を出して目をつぶって。」
少年は恐る恐る目をつぶった。