『12歳と言う年齢での出産は国内ではほとんど例が無く、子宮自体も未発達な為、出産には母子共に危険が生じる事が考えられます。
先程からお話をお伺いする限り、産むべくして授かったお子さんでは無いと察知致します。
手術をするなら―。』
病院からの帰り道、あたしはさっきの産婦人科医の言葉を思い出していた‥。
母はなにも言わず、ただ黙って歩いていた‥。
沈黙が苦しかった―。
何か言って。
何か言ってよ、お母さん。
家への帰り道、時間が経つのが酷く長く感じた―。
しばらくの沈黙を破って、母が口を開いた。
『奈央‥。相手はお父さんね?!そうなのね?!』
隠し通せる訳が無かった―。
あたしは母の問いに、素直にコクンと頷いた‥。
母は一瞬眉をひそめ、嫌悪感を露わにした。
『まさかあの人が‥。奈央に手を出したなんて‥。
奈央‥。関係を持ったのは一度だけなの?』
母はそう言って、歩いていた足を止め、あたしの顔を覗き込んだ。
『一年位前から‥。』
あたしはまた泣きそうになった。
『どうして母さんに言わなかったの?!なんで黙ってたの?!奈央?!』
『‥‥怖か‥った。怖くて‥言えな‥かった‥。』
喉の奥から込み上げてくる感情に、声にならなかった‥。
やがてそれは小さな嗚咽となり―。
気が付くとあたしは泣きじゃくっていた‥。
『奈央‥。大丈夫よ。母さん付いてるから。あなたがあの人に性的虐待を受けてたなんて‥。母さん全く気付かなかった‥。ごめんね‥。
一人で悩んで辛かったね。母さん守ってやれなくてごめんね‥。
そう言って母はあたしを抱き締めた‥。
母はその時、意外にも落ち着いていた―。
多分、あたしに気を遣ったのだろう‥。
本当は腸が煮えくり返る様な思いを押し殺していたに違いない‥。
実の娘が自分の愛する人に犯された怒りと、
自分の愛する人を、実の娘に寝取られた怒り―。
相反する複雑な思いで、母は心の中の葛藤と戦っていただろう‥‥‥。