指差した先、前から三列目の席には、長い黒髪の女の子が座っていた。
「あの髪長い子?」
「あぁ」
ふーん…。
横顔しか見えないが、彼女が美少女だとはっきりとわかった。
「美緒ちゃんっていうんだ〜ほんとぉぉに可愛くてさぁ、もう俺の天使だわ」
「話したことあんの?」
「ちょっぴりね!まぁ、挨拶程度だけどさ」
知らなかったな…あんな子がうちのクラスにいたのか。
「まぁ頑張れ。俺はどーでもいいや」
「お前は相変わらずだな〜、普通さあんな可愛い子いたら誰でも見とれちゃうんだよ。でもお前は、ふーんとかへぇって三秒見つめれば終了。もう少しは」
「はいはーい。わかってるよ。もう少しは周りに興味持てだろ」
俺だって、そりゃぁ好きとか青春みたいのしたいさ。でも、だけど、どうもそういう感情がわからない。
守ってあげたくなる、とか何なんだ。
貴士は生まれてから一度も誰かに恋をしたことがない。告白されても断り続けてきた。
「あぁ、もういーや。お前もいつかは胸が痛くなるくらいの恋をすると思うし。そのときは相談にのるからさ!」
「じゃあ俺はもっと票集めてくるわ」
「おぅ!せいぜい頑張れよ」