『九重会長―社交辞令は止めましょう―あなたを騙せる程の才能なんて私にはありません。それに騙すつもりもありません』
港リリアは頭のバンダナを外し―\r
巻き上げられたブラウンヘアーは音もなくほどけ落ちた。
エキサイトした時に良くやる彼女の癖だ。
『私はね―我が会長を―梅城ケンヤを倒すつもりです。どんな手を使ってでも。どれだけ彼が英雄であろうともね』
『何をいってるのですか!?』
九重モエは思わずソファーから立ち上がって両手で口を押さえた。
『あなたは梅城政権のナンバー2でしょう?どうして彼をそこまで危険視するのです?また仮に梅城会長があなたが言う通りだとしたって、それを諌め、止める事だって出来るではありませんか。
それに、万が一あなたが梅城会長を倒すにしても、選挙で落とすとかいくらでも合法的な手段がありますよ―第三中学校だって生徒有権者が会長を決めるシステムでしょう?
増してやその全てが出来る地位・権限のあるあなたがどうしてそんな発想をするのです!?』
そうだ。
九重モエの言う通りだ。
彼女の言葉は正しい。
第三中学校と港リリアの現状を的確に把握している。
全くの正論だ。
誰がどう見たってモエの意見の通りにした方が良いと賛同するに決まっている―\r
だが―\r
『本気ですよ私は。少なくともこの件に関してはね』
モエに合わせる様に港リリアも立ち上がり―\r
ブレザーを覆った豊かなブラウンヘアーは怪しく波打った。
『梅城ケンヤは再起不能にしなければなりません―そのために彼の生死は問わない』
挑発的にきらめく青い瞳がしっかりと穏健派の主を捉え―\r
九重モエは自分の鼓動が激しくなるのを感じた。
『そのためにあなたの力を借りたい―否。借りなければならないのです』
だが―\r
『裏切るのですか?梅城会長を』
九重モエもきっと相手を睨み返した。
『私を裏切者の仲間にするつもりですか?それとも侵略をそそのかしているのですか?』
裏切り・陰謀・戦争・征服―\r
九重モエが最も忌み嫌う四つのやり方だ。
その四つともが一度に自分の所へ来て《さあ使え》と進めるなど、聡明な彼女とて想像だに出来なかった。
しかも、最も言うべきではない人物の口を通して―\r