彼女は言った。
「忘れられない」と……
彼女は泣いた。
初恋の君を思い浮かべて
僕はそれを、何も出来ずに見守るしかなかった。
旧名家のお屋敷は、広さこそあれどどこか殺風景で、古びた木材が歩く度に軋んだ。
幾度となく修復されてはいるが周りの材質と大差のないよう、限りなく黒に近い茶色に染められ昔の質素な感じを受け継いでいる。
彼女はそれが好きだ。
暇を持て余してはフロアから続く中央の階段の踊り場で、幼い日にならったバレエのテンポをとる。
細く長い足が頭部まで上がり、くるぶしまであったスカートの隙間から見える白い太股に顔を赤らめて目を逸らした。
彼女は昔からそうだ。男性の目を気にもせず自由奔放に歩くその仕草や気ままさに、何人の男性が心奪われたか知れない。
もちろん僕もその一人だった。
彼女は僕にとって一番近い存在で、一番遠い存在だった。
きっと彼女は僕を気心知れた友人以上には思ってはいない。それを悲しく思う事もあったけれどそれでもいい。
彼女が傍にいるのであれば−−