俺はその彼女の顔をジッと見た。
何か引っ掛かる。
なぜかはじめて会った気がしない。
その声
その顔
その雰囲気
まるで昨年亡くなった前の彼女そっくりだ。
いや、そっくりと言うよりまるで生まれ変わったような。
俺は思わず
「絢(あや)か?」
と期待と共に言葉が洩れた。
絢と言うのは亡くなった彼女の名前。
もし、絢と言う名前なら、俺は………
「え?絢…?私は翔子って名前だよ?誰かと間違えてるの?(笑)」
彼女は一瞬キョトンとしたが、すぐに笑った。
俺は一瞬ガッカリした。
だけど絢にそっくりな彼女、翔子さんと出会えた事に胸を踊らされる。
まさか双子の姉妹なんて、そんな事ないはず。
絢に姉妹はいない。
本当に生まれ変わったような。
一目だけで翔子さんに、ひどく懐かしく、それであって愛おしい感覚に陥った。
「あの…ギターは弾かないんですか?」
ボーっとしていた俺に彼女は話し掛けてきて、ようやく自分の世界から抜けた。
「あっ、あぁ…今から弾くよ☆」
そしてまた、俺はギターを弾き始めた。
彼女は黙ったまま俺の歌を聞き、リズムに乗って首を左右に動かし、目線は俺の目に注ぎ込む。
すごく照れ臭い。
他の女の人に見られても何も照れ臭いって気持ちもなかったのに。
途中、俺は何回も動揺して歌詞間違いやコード間違いをして慌てる。
その度に彼女はリズムを止め、再びギターを弾けば彼女もリズムをとる。
初対面だとは思えない程、そこだけは息があっている気がした。
俺の調子が上がってきた時、俺は感じた。
俺は彼女しか見えてない。
他にも何人か女の人が見てくれているが、俺は彼女としか目を合わせられない。
いや、合わしたい。
これは
恋?
そんな馬鹿な。
いくら絢に似てるとはいえ、俺自身の事は俺しか分からないが、俺は人に惚れやすくないタイプだ。
出会ってまだ10分程度。
人をそんなすぐに好きになれない。
じゃあ、この感覚は?
恋…なのか?