宙際連合は徹底した人海戦術で航宙遊牧民族側の軍人・エンジニアの殲滅に狂奔したし、反面、航宙遊牧民族陣営は宙際連合や中立勢力を度々襲撃し、そこに住む市民達を略奪する《人拐い》戦術でこれに応じた。
当然犠牲も大きく、この戦役の終了までに航宙遊牧民族の共祖集団の規模は三分の一にまで激減し、一方、宙際連合に至っては軍民併せて六二億人が戦死・戦傷・拉致・行方不明・居住地喪失のいずれかの犠牲を強いられた。
戦場に置ける反人道・及び残虐行為の異常なエスカレート化も今回の闘いで特徴的な傾向であった。
特に宙際連合将兵による虐殺・強姦・略奪・捕虜への虐待や拷問・その他命令を無視した破壊活動は、例えば銀河元号七四0年だけを取っても合計三00万件も報告されている。
宙際連合の名将・ラフォーミュ提督は、この状況を次の言い回しで嘆いている―\r
《私が指揮を取った当初、確かに航宙遊牧民族の機動部隊はこの上ない強敵で恐怖と畏敬の対象だった。
だが、戦役が進むに連れて私は気付いた。最も恐れるべき敵は私の足元にいるのだ!
当初敵への警戒に私は全軍の三割を常に配備していたが、やがてそれ以上の兵力を他ならぬ私の部下達の暴虐に備えて用意せねばならなくなっていた》
軍や兵士達の狂暴さは、次第に非戦闘員や味方の支配地にまで振るわれて行き、その度に女性から老人・子供・病人の別なく無差別かつ一方的な蹂躙の的にされたのだ。
投じられた資金も凄まじい額に昇っていた。
宙際連合は既に戦争の半ばで財政破綻を来たし、出資者に利子及び支払いの無期限凍結を勝手に宣言した時点で、その債務は九八0兆GM貨―全加盟国GDP合計の何と七00倍にもなっていた。
宙際連合はそれまで金始め様々な貴金属やレアメタルの備蓄との交換を以て保証して来たGM貨のシステムを、安全保障―詰まり軍事力へと切り換えさせる事で通貨危機を乗り切った。
金本位制の廃止だ。
更に、戦争に負けたら債務者自体が消滅し、結果一銭も帰って来ないぞ―こう脅し付けて債権者達に引き続き融資させると言う強引な手段でどうにか軍資金をやり繰りした。
この様に、征夷王道化戦争は様々な傷や歪みを宇宙文明に残し、後の時代に警鐘を鳴らすべき内容に満ちていたが、それの記憶はすぐに風化して行った。
人々は戦争を忘れたがっていた―\r