『おはよう〜。』
いつもの様に教室を開けたあたしの目に飛び込んで来たのは、黒板いっぱいに描かれた落書きだったー。
“衝撃の!!大スクープ!!”
“木下 奈央は小6で子供を下ろした!!”
“禁じられた愛に溺れた12歳の少女の結末!!”
ー何これ?!酷い‥。
あたしは何が何だか分からなかったー。
“‥クスクス‥クス‥。”
ー何?!教室の雰囲気が変‥?!‥”
“ヒソヒソヒソ‥ー。”
自分の席に向かって歩いているあたしに、クラスメイト達の視線が突き刺さるー。
足が嫌がって‥うまく歩けない‥。
あたしが小6で妊娠、中絶した事‥。
此処には知っている人は居ない筈‥。
小学校も、この事を誰にも知られずに卒業出来たし‥。
知っているのは、あたしと母とあの男だけの筈‥。
何故?!どうして?!一体誰が?!
自分の席の前に来たあたしは、机の上の菊の花の入った花瓶に気付いたー。
黒板同様、机の上にも赤や黒の油性マジックで、落書きが激しく書きなぐられていた。
“赤ちゃんごめんね!!ママを許してちょうだい!!”
“やすらかにお眠りください♪”
今度生まれ変わっても、またママから生まれてね!!”
‥酷い!!。
‥一体誰が?!
‥何の為に?!
『‥ユカ‥?!‥おはよ‥。』
声が震えた‥。
恐らくユカに、あたしの声は聞こえなかっただろうー。
ユカは教室の一番後ろの席で、クラスメイトと一緒に遠巻きにあたしの方を見ていたー。
“クスクスクス‥。”
“ちょっと見てみ、木下の顔。”
“あんな大人しそうな顔して、やるコトやってんだ。”
“あたしだったら泣いちゃうね。”
“‥で相手は誰よ?!”
“ちょっとやり過ぎじゃない?!先公にチクられたらヤバくね?!”
“マジぃ〜?!超キモいんですけど〜。”
クラスメイトのあたしに対する中傷の言葉が耳に容赦なく突き刺さるー。
泣くもんか‥。
コイツらの前では絶対泣くもんか‥。
机の落書きを雑巾でゴシゴシ擦りながら、あたしはこぼれ落ちそうな涙を必死に堪えていたー。