「それは…。」
私が答えを言おうとした時だった。
ピリリリリリッ…―――。
凍りついていた空気に割れる様に携帯電話の音が響いた。
慌てて私は鞄から携帯を取り出すと、画面には『あき』と表示されていた。
どうしようか迷っていると、哲ちゃんが睨みながら私から携帯電話を無理やり奪い取るようにした。
画面の名前を見て、さっきよりも激しく哲ちゃんが私を睨み付け、それから何の迷いも無く電話に出た。
「何の用事だよ。」
苛立ちながら話していた哲ちゃんの表情が、次の瞬間に一瞬に焦っていった。
ゴトッと携帯電話を床に落として、しばらくの間明らかに狼狽を見せた。
「おい…。」
亮ちゃんが心配そうに声をかけた瞬間だった。
「ふざけんなっ!!」
私の目の前を哲ちゃんの拳が通り過ぎ、壁をドンッと叩いた。
そしてまた私を睨むと、哲ちゃんは走って出て行ってしまった。
「哲っ…!」
亮ちゃんが追いかけて行く。
私は意味もわからず、転がったままの携帯電話を拾い、まだ繋がっていたままの電話に出た。
「もしもし…?」
「…唯か?」
電話の向こうのあきの声も慌てていた。
「一体、何があったの?」
「加菜が…。」
心臓がドクンとなった。
「加菜が、事故にあったんだ。」
あきの言葉に、生まれてはじめての『絶望』を感じた。
ほんの小さなプライドや、些細な悪戯で後戻りが出来なくなってしまう事を痛感した。
ただ恐ろしくて、私はその場に座りこむ事しか出来ずにいた。