母が出ていってから、私はイイコに徹した。決して母に会いたいなど口にはしなかった。祖父母の気持ちを思えばそれは最低限のルールだった。
高校生になってもそれは変わらなかった。学校が終われば直帰し、祖母の家事の手伝いをした。
もっとも、母のことで人間不信になっていた私は彼を作って放課後遊ぶとか、友達と遊ぶなんて考えもなかったから苦にもならなかった。
毎日、そんなもんだと言い聞かせた。
この、なんの楽しみも刺激すらない毎日も、そんなもんだと。
その日も、はじまりはいつも通りだった。あの桜の木の下を通るまでは。