第一夜 樋本と僕。
あれから僕は、樋本と二人で暮らし始めた。
一週間が経ったが、強風と曇り空は全く改善されていない。
「衣茶良さん、朝食が出来ましたよ」
料理は僕の仕事。料理好きな母親が、僕に教えてくれた。初めは料理なんて男がやるもんじゃないと否定的だったけど、上手に美味しく作れるようになると、まんざらでもなくなった。
「うぉ〜っ。美味そう!いっただっきまーす!」
樋本は僕の作った飯を、毎日美味しく食べてくれる。
今日も皿を空っぽにしてくれた。
僕は、それを眺めるのが好きだった。
ふと、何気なく点いていたテレビに眼が行った。ニュースが放送されていて、先々月の事件についてずっと騒いでいる。
内容は、台風の日に不審火が原因でとある一軒家が全焼した。というもので、兵庫県で犯人捜しが始まっている。
それと似たような事件が過去に二十回も日本全国で起きたというのだから、驚きだ。犯人は未だに見つかっていない。それも、全ての事件に於いて、天気は嵐だったらしい。
「この事件、謎だよね。あ、ごちそうさまでした!」
樋本は食器を片付けながら言った。
「だってさ、その日は嵐だったんでしょ?当然、豪雨なわけで、火なんか消えちゃうじゃん」
「まあ、そうですね。でも、火事は屋内で起きたから、炎が広がる為の材料が沢山あった訳で、炎は広がっていく過程で、豪雨では消火しきれないまで大きくなった」
僕は言い切った瞬間に、本当にこれで良いのか?と不安になった。
「…んじゃないですか?」
「んー…ま、そういう事なんだろうね。あっ、天気予報」
樋本と僕は天気予報を見た。
明日からはまた下り坂。雨降りばかりだ。風は一時おさまるが、来週以降は小雨を伴う強風だそうだ。秋だし、仕方ないだろうと、僕等は妥協した。
「再来週は、台風だな」
僕は溜め息混じりに言った。
「え!?台風…?」
台風に過剰反応を見せる樋本を、僕は笑った。
「大丈夫ですよ。此処はアパート。それに、コンクリート造りですし。それとも、なんかあるんですか?」
樋本は俯いて言う。
「再来週、俺採用試験なんだよ…」
そういえば、三日前に樋本が嬉しそうに話していた。
給料の高い楽な仕事を見つけた、今度試験がある、と。
→ To Be Conthnued