『おい木下。悪い事は言わない。ここはひとつ私の顔を立てて、秋田谷に謝ってくれないか?!
秋田谷の父親は、
我が校のPTA会長であり、我が校に多額の寄付をして頂いている。
教育委員会でも、その信望は厚く、強い影響力を持っているお方だ。
木下‥。お前は市から就学援助を受けているな?!
秋田谷氏は市にも多額の寄付をしておられる。
だからお前が受けている就学援助は、
間接的に秋田谷氏から援助して頂いているという事になる。そういったボランティア精神旺盛なお方なのだ。
それに、市議会議員の方々とも親交を持っておられる。
近い将来には、市議選に立候補されると言う話もある。
木下‥、分かってくれ。これは私の立場だけの問題じゃない。お前の為にもこう言っているんだ。
頼む!!素直に秋田谷に謝ってくれ!!』
最早、あたしにとって渋川は、教師としての威厳さえ無くしていたー。
『嫌です。だってあたしは本当に盗ってませんから。何故謝らなければならないんですか?!』
職員室の中で話すには、あたしの声は大き過ぎた様で、机に向かっていた他学年、他学級の教師達が一斉にあたしの方を見たー。
『‥そうか‥‥。
話しても無理か‥‥。』
渋川は目頭を指で押さえ、頭を左右に振って言ったー。
側に居たユカは、最初から最後まで黙ってあたしと渋川のやり取りを聞いていたー。
『木下‥。お前の母さんの勤務先に電話させてもらうよ。』
そう言って渋川は、母を学校に呼び出すべく、母の勤務先に電話を掛けたー。