加菜が笑った瞬間、真っ白いカーテンが風が吹いて優しく少し揺れた。
「それ、スイセンね。」
加菜の言葉につられて、私は花束の白いスイセンを見つめてから、花束を加菜に手渡した。
「春を待ち続ける花ね…。」
また風が優しく私と加菜の間を通り過ぎた。
「私と加菜さんは似てる様で、全く正反対でした。」
私の言葉に、加菜は少しだけ驚いていた。
「そうね。お互いに無い物ねだりをしていた気がするわ。」
加菜の言葉に私は頷く。
「早く、良くなって下さい。」
それだけ言って私が病室を出ようとした時だった。
「悪いと思わなくて良いわよ。」
加菜の言葉に私が振り返ると、加菜は言葉を穏やかに、そして真っ直ぐに続けた。
「私も悪いとは思ってないから。むしろ、自分の気持ちに正直になれて清々しいくらい。
…これはあなたから学んだ事よ。
晶斗の事は…人の気持ちなんだもの。私に決める権利が無い事もわかってた。」
そして加菜は改めて私を見つめた。
「あきとは話したんですか?」私も加菜を見つめ直す。
「ええ。
あんな浮気性、こっちから別れてあげたわ。」
加菜がイタズラに子供の様に無邪気に笑う。
それから加菜はこう言った。
「これからどうするの、なんて聞かない。
だってあなたとはもう二度と会いたくないもの。」
加菜の言葉に私も笑った。
「ひとつだけ、おせっかいかもしれないけれど。
哲ちゃん、加菜さんの為なら何でも出来ちゃうはずよ。」
そう言ってから私は病室の扉を開けた。
「ありがとう。」
私の背中の方から聞こえた加菜の一言を、聞こえないふりをして私は病院を後にした。